狼は復讐を誓う

エアウェイ・ハンター・シリーズ 第一部パリ篇
大藪春彦
1975年発表

主人公の西城秀夫は警察庁嘱託の一匹狼。冷徹なスーパーマン。仕事には絶対の自信があるようで、自分がやられるという恐怖はないようだ。常に冷静で冷笑的。目的遂行のためには残虐行為も辞さない。その意味でサイコパスではあろうが、殺しを楽しむサイコではない。

世界各地に強力なユダヤ人支援者をもち、モサドともつながりのある世界組織のプロ集団に、たった一人で挑むなんて正気の沙汰とは思えないが、世の中には自らを非常な危険にさらすことに喜びを覚えるクレイジーな連中がいる。主人公もそういう類いの一人なのか。

多額の報酬と、任務遂行の過程で手にする、これまた多額の臨時収入はいったい何に使うのだろう。まさか老後資金ではないだろう。
思うに多額の報酬はプライドであり、本当は金などどうでもいいのではないか。主人公が仕事を引き受ける動機はハンティングなのだ。

冒頭部の描写からすると趣味はハンティングやフィッシングで、彼はレコードブックに載るようなビッグトロフィーを仕止めることを夢見ている。彼にとっては仕事もハンティングの一つなのだ。
彼は常にハンターであり、相手はあくまでゲームだ。それがどんなに強大でも、狩られるのは奴らの方なのだ。
死を恐れないのではない。死は狩られる側にあり、彼は死を与える側にある。それは彼にとって自明の理だ。死を与える側に死を恐れる理由はない。ある意味、究極のハードボイルドといえるかもしれない。

主人公が組織のパリ支局に乗り込み、これを文字通り「壊滅」させるところでパリ篇は終わる。次の目標はアムステルダムの本部だ。非情のハンティング・マシーンらしく、多くの無辜の人々をも巻き添えにしながら、組織を文字通り「粉砕」して欲しいものだ。